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「完全に立場逆やろあれ。三津さんしっかりしちょるようで結構幼いところあるな。」
高杉は泣くほど嫌か?と呆気にとられた。文も三津を置いて帰るのが若干心配だと片頬に手を当てた。
「泣くほど嫌と言うことは三津はもう私の名を呼んでくれないのか?」
まさか改名で泣かれるとは思わず桂もどうしていいか分からんと呆然とした。https://www.easycorp.com.hk/en/virtual-office
「三津にとっては思い入れのある名前なんですよ。今は混乱しちょるけどそのうち落ち着きますよ。多分。」
「……ちょっと話してくる。」
桂はこのままじゃ桶屋さん宅に戻れないと二人の後を追って広間を出た。
「余計な事言って拗れんかったらええけどな。」
高杉は心配やと呟いたが高杉に心配されるなんて世も末だなと文は笑った。
三津とフサは本堂の階段に腰を掛けて話をしていた。
「三津……。混乱させて悪かったよ。そんなにあの名前が好きなのかい?」
困ったような笑みを浮かべながら近寄ると三津は何度も首を縦に振って答えた。
「名前が変わったら私の事はもう好きじゃなくなる?」
三津の横にぴたりと寄り添ってその肩を抱き寄せた。三津はそんなこと無いとしゃくり上げながら答えたがでも新しい名前は嫌だと泣いた。
「気持ちの整理がつくまで小五郎のままでいいから。」
「ごめんなさい……名前一つで泣いてもて……。」
「いいんだ。そんなに愛着持ってくれてたなんて嬉しいよ。私は三津に愛されてると自惚れてもいい?」
三津を抱き寄せてそのまま腕の中に閉じ込めた。胸に縋りついた三津が何度も頷いてくれるから抱きしめる腕に力が入る。
するとフサは静かに立ち上がって会釈をし,音もなくその場から立ち去った。
『本当に出来た子だ。』
ここはフサの好意に甘えて二人の時間に浸るべきだ。久しぶりに抱きしめた温もりに頬をすり寄せた。「すみませんもう泣き止みます。お腹空いてますよね?すぐに夕餉を……。」
「あっいやっ本当に改名の報告に寄っただけで夕餉は桶屋さんとこで食べると言ってあるんだ……。」
「そうやったんですか?すみません桶屋さんも帰りを待ってはりますよね。ホンマにごめんなさいもう大丈夫!」
三津は乱暴に目を擦ってから顔を上げてにっと笑った。
『また無理して大丈夫って言う……。』
もっと駄々をこねて甘えて縋りついて引き止めてくれたっていいのに,なかなか思うようにはいかない。
「早く帰ってしっかり食べてゆっくり休んでください。」
さっきまでは子供のように泣きじゃくっていたのに今は余裕のある大人な対応をしてくる。表情だって大人の女の雰囲気を纏って穏やかな笑みを浮かべる。この変わりようにいつも戸惑う。
「そうだね。みんなに声を掛けてから戻るよ。本当は連れて帰りたいけど。」
「桶屋さんが困るやろうからやめて下さい。」
何でそういう所は冷静に対処してくるんだ。ついて行きたい一緒にいたいぐらい言ってくれてもいいじゃないか。
「あんまり私と一緒にいたくない?」
「え!?違います!!私なんかに構うよりゆっくり休んでほしくて……。」
「ねぇ何でいつも肝心な事忘れてるの?私は君といると癒やされて疲れが取れるんだ。京に居た時みたいに本当は二人で暮らしたい。隣りで寝たい。なのに何で三津の隣りで寝てるのは九一なの?」
そう吐き出したところで後悔した。また嫉妬で三津を困らせてしまった。じっと見つめてくる目がまた潤んでしまった。
「文さんとフサちゃんが帰ったら私は広間を使います。ちゃんと別で寝ます……心配かけるような真似はしません……。」
「すまない……困らせたかったんじゃないんだ……。」
「いえ,あなたを困らせてるのは私ですから。広間に戻りましょうか。」
三津はにこっと笑って何事もなかったように階段を降りて桂の前を歩いた。
『あなた……。名前で呼んでくれなかった……。』
慣れるまで小五郎でいいと言ったのに何故。しかも妻が旦那を呼ぶ時の“あなた”ではなく他人行儀の“あなた”だった。
その日桂は傷心のまま桶屋邸に帰って行った。
入江が湯浴みに行ってる間に寝床の用意をしていた三津は敷いた布団の上で正座をして大きな溜息を一つついた。
「また喧嘩したそ?でっかい溜息。」
「うわぁ!びっくりした!」
いきなり障子を開けられた三津は大きく体を跳ねさせてバクバク脈打つ左胸を両手で押さえた。